今回、「がんフーフ」をいう本をご紹介します。こちらの本は、題名から予想つくとおり、がん患者を持つ夫婦のお話です。主人公の夫婦は、学生時代から十数年のお友達なわけですが、30半ば過ぎにそろそろ自分の人生を見つめ直したとき、いつもそばにいたお互いに引かれ合い、ついに結婚します。

奥さんの方はこどもを諦めていたのですが、幸運にも結婚後すぐに子どもを授かることに成功します。しかし、自身に直腸がんがあることが発覚しました。闘病のなか、なんとか未熟児の赤ちゃんを出産します。集中治療室にすぐ運ばれながらも、赤ちゃんはすくすくと育っていきます。

しかし、奥さんの様態はがんがリンパ節や肺に転移し、ますます悪くなっていきます。それでも、旦那さんは賢明に看病し続けます。また、両家の両親や多くの友達にも恵まれ、皆から励ましをうけ賢明に生きます。そして、命の最後まで人生を全うして生きます。

この本は、ただ「がんについて語る本」ではありません。この夫婦の明るさがとても本に出ています。ただ明るいだけでなく、焦りや葛藤、そして挫折など人間の弱い部分も見せてくれる本です。闘病生活は決して優しいものではなく、ドラマのような美しい物語ではないことを教えてくれます。

病に対峙することは、必ずしも誰かのためにがんばることではない、自分で判断して責任を持って生きていくしかないことがわかります。そこには、簡単に「頑張れ!」などと言えない世界があります。みな、それぞれにがんばっている中で、どうしても乗り越えられない壁があり、それでも自分たちで突き進むしかないことがわかります。

ドラマのような美しさだけではない、リアルな人の葛藤に心が動かされました。人生は、物語のようにはいかなく、それぞれに悩みや不安を抱えながら生きているのだと感じさせてくれます。夫婦は川崎に住んでいましたが、終盤は奥さんの故郷である、茨城県いわき市に引っ越します。そこでは、即席のウェディングパーティーなど開催され、友人たちに温かく歓迎されます。

奥さんはとても人望ある方のようで、友人を多く持っている方です。闘病期間中はいつでも友人が駆けつけてくれます。また、寂しがりやな面もあり、常に誰かと関わっていたいという思いもあります。けれども、自分の病に対してみなに迷惑をかけていることにたいし申し訳ない気持ちでいっぱいです。人が大好きな分、人に迷惑をかけたくないという思いで、最後は友人にも家族にもそして旦那さんにも助けを求めず、一人で息を引き取っていきます。人は、あまりにも人が好きなとき、誰かに迷惑をかけていることにひどく申し訳なさを感じるのかもしれません。人が好きだからこそ、最後は一人で絶つ道を選びます。

また、本文ではそれぞれの思いが衝突します。たとえ、身近な友達であっても、自分にとっての本当に辛い部分はわかりません。そこには、どうしても温度差が生まれます。自分ではがんばっているつもりでも、端から見ればまだがんばれると思われてしまう。極限状態でのさらなる激励が、ときには有難くときには厳しくうつってしまう。そこでは、どうしても感謝と反発が入り乱れます。必ずしも自分の見方がすべてではなく、それぞれの考えがあるのはわかっているはずなのに、疲れや焦りからか意見の食い違いに反発や怒りを覚えます。

結局、旦那さんは長年努めた編集部の仕事を退職し、いわきへと向かいます。そして、息子と二人になったあと故郷である広島へ戻ります。奥さんが亡くなったあと、何度が奥さんの友人とも集まるのですが、徐々に奥さんの存在が薄れ、話題が違う方向へいくのがわかります。確かに大事な人が亡くなったのだけれども、それぞれが自分の人生を歩んでいることに気づかされます。ときは決して止まることなく、それぞれの時間を進んでいることを感じます。しかし、奥さんの死をきっかけに、奥さんの友人たちは毎年奥さんの命日近くに人間ドックに通うようになります。そこには、確かに奥さんの存在が残っています。

旦那さんは、息子をたくさんの価値観に触れ合わせたい、また自分の親にも孝行したいとも思いから、広島へと戻ります。生前の奥さんは音楽も好きで、ジャンクフードも大好き、闘病生活の合間を見つけてハンバーガーをほおばります。また、夫婦の所々に出てくる英単語が広い世界観を持ちたいという思いを感じます。学生時代の仲だったけれども、状況は変化し着実に大人になっていく夫婦。結婚わずか1年以内に出産、闘病をむかえる運命。

世の中には、死にたいという人がいるなかで、どうにかして生きたいという人もいます。生きるということはなんなのか、家族という存在はなんなのか改めて考えさせられます。また、もし余命残りわずかなとき自分はどうするのか、もし愛する人が命残りわずかならどうするのか、考えさせられます。たとえ余命わずかでも、この主人公のようにとくにいつもと変わらないのかもしれません。しかし、それでもどこかいつもとは違う時間が流れていきます。それは、今までに気づかなかった濃い時間かもしれません。もともとブログから始まった本ですが、今でもアメブロにそのブログは存在しています。また、旦那さんである清水浩司さんは、ツイッター(@ShimizuKoji)をされていました。今も広島で活動されているようです。

人間は必ずしも強くない、でも弱い部分の中にも人を愛し、賢明に生きる姿があることに深い感動を感じました。